新聞やテレビ、ネットなどで高齢者の事故のニュースを見るたび、高齢者になった自身や両親が同様のことを起こしたり巻き込まれたりしないかと、不安になっていませんか。
2022年現在、高齢者ドライバーによる事故は社会問題になっていて、政府や自治体もさまざまな対策を講じています。
そこでこの記事では、高齢者の事故について、現状や具体的な原因、自身でできる対策や政府・自治体の対策、運転に不安があるときにやるべきことなどを紹介します。運転を続ける限り、事故のリスクは付きまといます。少しでも安全を確保できるよう、ぜひ紹介する対策を参考にしてください。
目次
高齢者の運転事故の現状
高齢者の具体的な事故対策を知る前に、対策の必要性を実感するため運転事故の現状から見ていきましょう。
なお高齢者の定義は法律などによって異なります。総務省や警視庁の統計で採用されている「65歳以上」を高齢者として、紹介していきます。
高齢者による事故は年々増えている
警視庁が2021年に発表した高齢運転者交通事故発生状況によると、過去10年での事故発生件数やその内で高齢者が起こした件数は、次の通りです。
年 | 年間の交通事故発生件数 | 高齢者が第一当事者の事故発生件数 | 高齢者による事故の割合 |
2011年 | 51,477 | 6,923 | 13.4% |
2012年 | 47,429 | 6,600 | 13.9% |
2013年 | 42,041 | 6,341 | 15.1% |
2014年 | 37,184 | 6,033 | 16.2% |
2015年 | 34,274 | 5,806 | 16.9% |
2016年 | 32,412 | 5,703 | 17.6% |
2017年 | 32,763 | 5,876 | 17.9% |
2018年 | 32,590 | 5,860 | 18.0% |
2019年 | 30,467 | 5,524 | 18.1% |
2020年 | 25,642 | 4,246 | 16.6% |
2020年と2011年を比べると、高齢者による事故の割合は増加していますが、発生件数自体は減少傾向です。
高齢者の事故の割合が上昇している要因としては、日本の人口に占める高齢者の割合が増えていることも一因と考えられます。
総務省統計局が発表している「国勢調査」や「人口推計」を使った高齢者人口の推移では、10年前と比べて総人口の高齢者が占める割合は約5%増加しています。2040年には日本の35%は高齢者になるという予測です。
昼間の事故が8割を占めている
警察庁が2017年に公表した「高齢者による交通事故分析」では、高齢者ドライバーが起こした死亡事故の内、昼間に起きているのが8割です。さらに発生場所は、自宅から5km以内が6割となっています。
日頃慣れ親しんだ道しか運転をしないという人も、安全とは断言できません。高齢者であれば、昼間や近場であっても事故を起こしてしまう可能性が高いことを知っておきましょう。
参考:高齢者による交通事故分析
高齢者の運転事故の主な原因
高齢者の運転事故の主な原因は次の3つです。
- 動体視力の衰え
- 判断力と記憶力の低下
- 長年の運転経験からくる油断
なぜこれらが原因になるのか詳しくみていきましょう。
動体視力の衰え
運転中は常に動いているものを見て、安全を確保する必要があります。対向車との距離や速度、各種の標識・道路標示、信号など、どれもハッキリと視認できてないと深刻な事故につながります。
動体視力のピークは20歳前後で、加齢とともに減少していく傾向にあります。左右の視野角も狭くなり、見落としが増えます。右折などで対向車との距離が十分にあると思っていても、想定より近かったり速度が出ていたりして、事故が起こるのです。
視力が落ちて眼科に行っても、動体視力のチェックまではしないことが多いため、衰えに気づかないことも多いようです。
判断力と記憶力の低下
人は高齢になると判断力と記憶力が落ちる傾向にあるため、運転事故を起こしやすくなります。
よくあるのがアクセルとブレーキの踏み間違いです。停車しようと思ったときにアクセルを踏み込んでしまうと、悲惨な事故が起きてしまいます。度々報道される駐車場から店内への突っ込みは、これが原因です。
同様のケースでは、ドライブとバックの入れ間違いでも起きています。例えばバックで縁石がある所に駐車している状況で、発車するときシフトレバーを「R」に入れてしまうと、進まないと思いアクセルを踏んでしまうでしょう。結果後方にあるものに突っ込み、事故となってしまうのです。
判断力の低下は、対向車が来ているときの右折でも問題になります。十分な車間があると思っていても右折の判断が遅れ、衝突事故が発生しやすくなります。
長年の運転経験からくる油断
肉体的な機能の低下だけでなく、長年の運転経験に由来する油断も事故につながり得ます。
「長年運転してきたので大丈夫」「今までの運転で事故を起こしていないから問題ない」という思い込みがあると、動体視力や判断力の低下もあいまって大事故につながるかもしれません。
思い込みによる事故の例として、車間距離を十分にとらない運転を考えてみましょう。前方の車は常に直進するとしか考えず車間距離が短いと、相手が左折や右折などで減速したとき、ブレーキが間に合わず衝突事故を起こす可能性があります。
上記のようなケースでも、若いころは反射的に危機を回避できていたかもしれません。しかし、高齢になるととっさの対応が難しくなるため、常に慎重に運転する気構えが必要です。
高齢者の車の事故を防ぐための対策
体の衰えは高齢者にとって避けられないことです。どれだけ安全に運転しているつもりでも、思わぬことで事故が起きてしまうリスクはあります。
そこで両親や自身の安全確保のため、次の3つの対策を実践しましょう。
- 定期的に眼科検診を受ける
- サポカーSの車に買い替える
- 高齢者マークをつける
定期的に眼科検診を受ける
自覚症状がなくとも、高齢者になると視力は低下します。運転免許を1度更新すると、次の数年後まで視力検査を受けない人もいます。安全運転のためには、定期的に眼科検診を受け、問題がないかを診てもらうのがおすすめです。
お金はかかりますが、その都度最適な度数の眼鏡にするだけでも、運転の安全性は高まります。定期的な眼科検診により、視力低下を引き起こす病気の早期発見も期待できます。これからも運転を続けたい人は、面倒と思わずきちんと検診を受けましょう。
もし眼底検査を受ける場合は、車を自分で運転し眼科に行くのはやめておきましょう。検査には瞳孔を拡大する薬が使われるため、4~5時間は見えにくい状況が続きます。そのまま運転しては通常より事故のリスクが高いです。
サポカーSの車に買い替える
サポカーSとは、安全に運転できるよう次の機能が搭載された車です。
- 低速衝突被害軽減ブレーキ
- ペダル踏み間違い時加速抑制装置
- 衝突被害軽減ブレーキ
- 車線逸脱警報
- 先進ライト
これらの機能がある車であれば、万が一運転のミスをしたり危機的な状況に陥りそうになったりしたときに、事故のリスクを下げてくれます。2022年現在、大手自動車メーカーでは標準搭載されている車が大半です。
車種によってどこまで装備されているかは変わります。可能なら全て装備されたサポカーSを選びましょう。
注意点として、これらの機能の後付けはできません。車種ごとに細かく設定されており、カー用品店などを見ても、該当する商品は見つけられません。新車の相場は軽自動車でも100万円越えが当たり前で、預貯金に余裕がないとハードルは高いです。しかし事故を起こしたときの損失を考えると、サポカーSへの買い替えはおすすめです。
高齢者マークをつける
※画像引用:高齢運転者標識を活用しましょう!|警察庁
高齢者マークは、70歳以上の高齢者が車につけるマークで、運転免許センターやカー用品店などで入手できます。
高齢者マークをつけている車に幅寄せや割り込みをすると、道路交通法違反となり、1点の違反と車種によって5,000~7,000円の反則金が発生します。
そのため、高齢者マークをつけていると、周囲の車が注意して運転するようになり、運転者の安全が確保されやすくなります。
高齢者マークをつけていなくても特に罰則はありませんが、試して損はないでしょう。
高齢者マークについて詳しくはこちらの記事で解説しています。
「高齢者マークとは何か?いつから付けるのか・注意点を徹底解説」
高齢者事故防止のための政府や自治体の取り組み
続いて、政府や自治体が高齢者の事故防止のために実施している取り組みを紹介します。2022年時点で開始されている高齢者の事故防止対策として、次のものがあります。
- 認知機能検査の実施
- サポカーの補助金制度
- 運転トレーニング
- シルバードライバーズサポート
- 公共交通機関の利便性の向上
認知機能検査の実施
認知機能検査は、75歳以上で運転免許を更新するときに必須の検査です。認知機能が衰えているかどうかを、更新の講習前に運転免許センターや教習所で検査することになります。
この制度は2009年から開始されており、2022年5月の改正道路交通法の施行で変更が加わりました。ここでは制度変更後の検査内容について解説します。
認知機能検査では、その場で不合格になることはなく、点数によって次の2パターンに分かれます。
区分 | 点数 | 検査後の流れ |
認知症のおそれあり | 36点未満 | 記憶力や判断力などの認知機能の低下が疑われるため、専門医の受診が必要になります。
その結果、認知症でないと判定されれば、高齢者講習(2時間)に進みます。高齢者講習を受けた後は通常通り免許が更新でき、運転免許証の交付がされます。 一方で認知症と判定されたときは免許を更新できず、取り消し等となります。 |
認知症のおそれなし | 36点以上 | 認知機能に問題ないため、高齢者講習(2時間)に進みます。高齢者講習を受けた後は通常通り免許が更新でき、新しい運転免許証を受け取れます。 |
認知機能検査は、更新満了日の6ヶ月前から1回1050円の手数料で受けることが可能です。
認知機能検査の詳細な内容については以下の記事で解説しています。
「認知機能検査とは?対象となる人や項目・点数の違いなどを解説」
高齢者講習について詳しく知りたい人にはこちらの記事も読んでみてください。
「高齢者講習とは?講習内容や受講から免許更新の流れまで徹底解説!」
サポカーの補助金制度
さまざまな安全機能を付けるほど、車は高額になる傾向にあります。そこで政府は2020年に、65歳以上を対象にサポカー向けの補助金制度を作りました。
対象となる機能は「対歩行者の衝突被害軽減ブレーキ」と「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」です。最大10万円、中古車でも4万円まで補助金を受け取れます。「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」であれば後付けが可能で、補助金の最大は4万円です。
ただし、残念ながら2021年11月時点で申請受付は一旦終了しており、2022年1月時点では新規の申し込みはできません。
2022年度も継続するかどうかはわかりませんが、安全機能が付いた車を購入する場合は、補助金制度がないか探してみてください。
運転トレーニング
これまでの運転で無事故無違反だったとしても、大丈夫だと過信してはいけません。想定外のことで事故は起きてしまうものです。
東京都限定ではありますが、警視庁は高齢者に向けて運転の練習を促す、「TOKYOドライブ・トレーニングキャンペーン」を行っています。
指定の教習所で運転技術のチェックや運転練習をすることが可能です。運転免許の更新時の高齢者講習とは別で、内容は教習所によって異なります。
受講料は有料で数千円から数万円と教習所によって幅があります。練習をしたい人は、警視庁が公開している協賛教習所から行きやすいところを選び、申込みをしてください。運転で苦手意識があるところだけでも練習をしておくと、事故の防止につながります。
参考:TOKYO ドライブ・トレーニング キャンペーン(高齢ドライバーの運転練習について) 警視庁
シルバードライバーズサポート
自治体独自の取り組み例として、東京都の「シルバードライバーズ交通安全教室」があります。東京都に勤務・居住している65歳以上のドライバーを対象に、ベテランの指導員が指導や助言をしてくれます。
参加費は無料で、年末年始と8月以外の毎月第1金曜日と第2土曜日に開催されています。事前に申込みをして、日頃から運転している車を持ち込んでください。急ブレーキや危険予測の体験から、自分の現在の運転を見直してみましょう。
公共交通機関の利便性の向上
交通事故のリスクは、そもそも運転をしなければ大幅に下げられます。そこで自治体は地域公共交通会議を開催し、電車やバス、タクシーなどの利便性向上に努めているのです。
施策として、乗合タクシーサービスの導入やスクールバスへの混乗などがあります。地方では高齢者でも車の利用率は高く、人口減少で公共交通機関の赤字経営が続いている現状です。自治体ごとに最適な形を模索しながら、取り組みが行われています。
高齢者が車の運転に不安を感じている場合は
上記で紹介してきた対策の実践や、政府・自治体の取り組みを活用をしても、まだ運転に不安を感じる人もいるかもしれません。
そのような人は、次の2つを検討してみてください。
- 周囲の人に相談する
- 免許の自主返納を検討する
周囲の人に相談する
自分の運転技術を客観的に判断するのは難しいです。特にこれまで無事故無違反であると、安全運転をしていると思いやすいです。そこで不安を解消するため、家族や友人に自分の運転について相談をしてみましょう。
実際に、一度自分の運転を見てもらうのもよいでしょう。否定的な意見が出ても素直に耳を傾け、今後の運転について話し合ってみてください。
運転免許の自主返納を検討する
どうしても不安を拭えない人は、運転免許の自主返納をしましょう。自主返納の制度は1998年から始まりました。2022年時点では、自主返納後に交付される運転経歴証明書を持っていると次のメリットがあります。
- タクシーやバスの運賃の割引
- 商品券の贈呈
- 百貨店などの宅配料金の割引
- 美術館や飲食店の割引
- 車の廃車手続きの無料
メリットの内容は自治体によって異なるため、どのような割引やメリットがあるのか確認してみましょう。
運転免許の自主返納の平均年齢は76.6歳です。認知機能検査の必要性もあるため、75歳を目安に今後の運転について考えてみる機会を設けてみてはいかかでしょうか。
高齢者ドライバーならではの事故対策に目を向けよう
高齢者向けの事故と対策には、定期的な眼科検診やサポカーSの車を運転、高齢者マークをつけるといったものがあります。政府や自治体も、認知機能検査や運転トレーニングなどさまざまな取り組みで、事故を抑制しようとしています。
しかし最も大切なのは、「慎重に運転しよう」というドライバーの気構えです。
人によって差はあれど、加齢に伴う動体視力や判断力・記憶力の低下は起きるものと考えましょう。運転に自信がある人ほど、若いころと同じ判断や対応ができると思いこんでしまいがちなので注意が必要です。
不安がある人は運転免許の自主返納も視野にいれて、今後の運転を見直してみましょう。