安全運転を心掛けていても、自動車事故を起こしてしまえば賠償や傷害などで相当の出費を強いられることになります。
こうした万が一に備えるために、自動車保険への加入は欠かせません。しかし、自動車保険を提供する保険会社の数は数え切れないほど多く、また一つの保険会社のなかにも多種多様な保険が存在しています。
ぱっと見の印象では不要だと思った補償内容や特約も、概要を理解すれば必要性を実感することもあります。保険料の安さだけでなく、サポートの重要性についても把握していきましょう。
本記事では、こうした複雑で数多い保険のなかから、自分のニーズを踏まえたうえで最適な保険を選ぶためのコツを解説します。さらに加入の方法も解説するため、保険加入を検討している人はぜひ参考にしてください。
目次
自動車保険の加入が必要な理由
自動車保険には、すべてのドライバーに加入を義務付けている自動車損害賠償保険(自賠責保険)と、ドライバー個々人に加入を任せている任意保険の2つが存在します。
「加入義務がある自賠責保険が最低限を補償してくれるのならば、任意保険は要らないのではないか?」と感じられる場合もありますが、そう判断する前に自賠責保険の範囲について知る必要があります。
自賠責保険の補償対象は、対人賠償に限られているからです。自賠責保険は事故時に相手に負わせた損害を賠償するための保険であり、相手の自動車や自分のケガなどは補償されません。
例えば、任意保険に加入していないサラリーマンが単独の自動車事故で負傷し働けなくなった場合、自賠責保険からはなにも補償されません。治療費も、働けない間の給与の代わりもないため、経済的に厳しい状況に追い込まれる可能性もあります。
任意保険であれば、補償内容次第でこうした状態をカバーすることができます。万が一の事態に必要な「最低限」を確保しようとすれば、自賠責保険では補いきれないことを把握しておきましょう。
自動車保険に加入する前に目的を整理する
任意保険には最低限の補償だけでなく、自動車保険には車両保険や特約といった、目的に応じて必要性の異なるものが含まれます。
例えば、原付向けの特約であるファミリーバイク特約は、普通自動車だけでなく原付を運転する機会がある人にとっては有効ですが、原付に乗らない人にとってはあまりメリットのある特約でなく、余計な保険料を支払うことになってしまいます。
「特約に入っていないせいで必要な補償を受けられない」「不要な特約に入ってしまったせいで保険料に無駄がある」といった事態を避けるためにも、自動車保険に加入する目的を明確にしておきましょう。
自動車保険における7つの基本補償内容
多くの自動車保険では、次の7つの項目が基本的な補償内容となっています。
【賠償責任保険】
保険名 | 補償される範囲 | 補償内容 |
対人賠償保険 | 事故相手となる他人 | 自賠責保険の保険金額を超えた分の金額 |
対物賠償保険 | 自動車や家屋、所有物などの財産 | 法律上損害賠償責任を負担する場合に適用
事故の直接被害に加え、間接被害も補償 |
【傷害保険】
保険名 | 補償される範囲 | 補償内容 |
人身傷害補償保険 | 記名被保険者とその配偶者、同居の親族、別居の未婚の子、契約中の自動車に搭乗していた人など | 対象者が死傷した場合に、過失割合に関係なく適用
補償限度額は3,000万円、5,000万円、1億円、無制限などから選択できる |
搭乗者傷害保険 | 搭乗していたすべての人 | あらかじめ定めた保険金 |
自損事故保険 | 搭乗していたすべての人 | 死亡:1,500万円
後遺障害:50万~2,000万円 ※人身傷害保険を優先的に適用 |
無保険車傷害保険 | 記名被保険者とその配偶者、同居の親族、別居で未婚の子、同乗者など | 事故相手が無保険車の場合、入っていても条件が合わない場合、当て逃げされた場合などに適用 |
【車両保険】
保険名 | 補償される範囲 | 補償内容 |
車両保険 | 契約時に指定した車 | 単独事故、飛び石、自然災害、盗難など |
これらのうち、対人賠償保険と対物賠償保険は、賠償金額が巨額となる可能性が高いことから、その補償金額を無制限に設定するのが一般的です。
また、保険に入りたい人のニーズによっては不要な保険もある場合があります。車両の乗り換え間近なのに、車両保険に加入するのは代表的な例です。
自動車保険会社を選ぶときの4つのポイント
万が一に備えるとはいえ、際限なく保険にお金を注ぎ込むのはアンバランスな選択肢となります。しかし、保険料の安さだけに注目して肝心の補償内容を軽んじてしまっては本末転倒といえるでしょう。
自分の目的に合った保険を選ぶ、といっても、基礎的な補償内容は似通っている部分も多いため、そうした面ではなにを比較すれば良いのか、わかりにくいかもしれません。
自動車保険会社を選ぶときに抑えておきたいポイントを把握しましょう。
- 保険料と割引の有無
- 特約やロードサービスの充実度
- 事故対応の体制
- 保険会社の口コミや評判
上記の4つを基本として、自分の目的に合いそうな保険会社、保険のプランを比較してみましょう。
保険料と割引の有無
自動車保険は基本的に掛け捨て(満期保険金がなく途中で解約しても解約払戻金がない)保険のため、保険料をおさえることは保険を選ぶうえでとても重要な要素です。
単純に保険料を比較することはもちろんですが、保険会社によっては一定の要件を満たすことで保険料に割引が適用されるケースもあります。たとえば、インターネットで手続きをすることで受けられるインターネット割引、エコカーを使用していることによる割引、ゴールド免許であることで受けられる割引などです。
複数の保険会社・保険プランを比較し、ニーズに合ったサービスと納得できる保険料を提示しているものを選びましょう。
特約やロードサービスの充実度
対人賠償や対物賠償、人身傷害、車両保険といった基本的な補償内容はどの保険会社も似通っていますが、それに付随する特約やサービスでは大きく個性が現れます。
付随する特約やサービスとしては、トラブル時の弁護士費用や事故時のロードサービス、駆けつけサービスなどが代表的ですが、それらの有無と詳細な内容、適用条件は保険会社や保険プランによって大きく異なるため、自分に必要なものを選ぶことが大切です。
特約の一例
基本的な補償内容に加え、万が一をさらにサポートするものが特約です。代表的な特約には、次のようなものがあります。
特約 | 補償内容 |
弁護士費用補償特約 | 弁護士を通じた交渉などの費用を補償する特約 |
代車費用特約 | 事故で損傷した車を修理している間、代車を利用したときの費用を補償する特約 |
ファミリーバイク特約 | 原付バイク運転中の対人、対物事故や自分自身のケガを補償する特約 |
特約をつけるとより多くの保険料を支払うことになりますが、いざ事故を起こしてから特約に入ってもサポートを受けることはできません。
特に弁護士費用は必要かどうかをしっかりと考える必要があります。対人事故の場合、示談などのために交渉をしなくてはならない場合がありますが、これを完全に自己完結させるのはとても難しいと言えるでしょう。
特約の対象は契約者本人だけでなく、家族など親族が加わる場合もあります。特約の重複は余計な費用を支払うことにもつながってしまうため、自動車保険に加入する際には自分が現在加入している各種保険を確認し、加えて家族とも確認を取ることをおすすめします。
ロードサービスの一例
ロードサービスに加入していることで事故時や車両トラブル時にサポートを受けることができますが、事故を起こしたことがない人にとっては実際にどのようなサービスが受けられるかイメージがつきにくいかもしれません。
ロードサービスで受けられるサポート例は次の通りです。
- 車の故障時のレッカー移動
- パンク時のスペアタイヤ交換
- ガス欠やバッテリーが上がったときの対処
- 旅行先での車故障のサポート など
運転時間が長い人や遠出が多い人はどこまでのサポートが必要かどうかを検討してみましょう。
事故対応の体制
いざ事故を起こしてしまうと、何をどこから手をつけるべきかパニックに陥ってしまう可能性もあります。そうした状況できちんと事故対応をしてもらえないような保険会社では、加入するメリットは薄くなってしまいます。
事故が起きた場合、24時間365日対応してもらえるのか、事故現場からの帰宅費用の援助は出るのか、レンタカーは提供してくれるのか、など事故対応の内容も比較しましょう。
安心した事故対応には、丁寧で迅速なサポートが欠かせません。事故対応満足度の評判が悪いものは避ける、契約者の口コミを参考にするなどして、気になった会社の対応力を吟味しましょう。
保険会社の口コミや評判
カタログやパンフレット、インターネットで補償・サポート内容を見ても、実際に事故やトラブルが起きてみるまでその質はわかりません。納得を感じられないまま保険を決めてしまえば、どうしても不安が続いてしまうでしょう。
保険を選ぶ際には、判断材料としてSNSや口コミサイトに目を通すことも選択肢の一つです。実際に保険を契約している人の生の声から、事故への対応力やサポート内容を推測できます。
また、いざ事故を起こした際に、保険料の支払いを渋るような会社も避けたいものです。保険料の支払い査定が厳しいかどうかの情報も、利用者の声から探してみると良いでしょう。
匿名であることの多い口コミは生の声を聞くことができる一方、信頼性に欠ける点も否めません。実際に苦情を多く寄せられているような会社は、日本損害保険協会の集計で確認できます。
実際の苦情件数と比較しながら、口コミと評判を信頼して良いか考えるのも一つの手段です。
自動車保険に加入する2つの方法
加入したい自動車保険を決めたら、実際に手続きを進めて加入しましょう。
加入には、スタッフと対面で手続きを進める代理店型と、インターネットや電話で完結するダイレクト型の2つの方法があるため、自分に合っているものを選ぶことが大切です。
代理店を通す代理店型
保険代理店を通じて加入する保険を、代理店型の自動車保険と言います。メリットとデメリットは次の通りです。
メリット | デメリット |
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綿密に相談を重ねながら手続きを進めやすく、より安心感の得られる場合のある手続き方法ですが、担当者がこちらのニーズをうまく理解していない場合などは、不要な特約やサポートを勧められてしまう場合もあります。
以上の特徴を踏まえると、代理店型の自動車保険は、次のような人に向いていると言えます。
- 対面の安心感を重視したい人
- より手厚い手続きのサポートが欲しい人
- 相談しながら必要な保険を考えたい人
スタッフの質が重要になるため、保険会社だけでなく代理店も口コミや評判を踏まえて選ぶことをおすすめします。
ネットや電話で契約するダイレクト型
インターネットや電話を通じ、直接保険会社と契約する保険を、ダイレクト型の自動車保険と言います。その性質から「通販型」と呼ばれることもあります。
ダイレクト型のメリットとデメリットは次の通りです。
メリット | デメリット |
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手間と費用を抑えて手続きを進めることが可能で、保険の知識があればよりスムーズに手続きを進められる方法です。一方で相談のしやすさや対面の安心感は、代理店型よりも控え目に感じられるかもしれません。
そのため、次のようなニーズを持つ人が、ダイレクト型の保険に向いていると言えます。
- 保険料を抑えたい人
- 来店する手間を省きたい人
- 自分で保険を調べられる人
ダイレクト型の自動車保険は、対面以外の手続きサポートは充実している傾向にあります。
自動車保険の選び方でよくある疑問
強制加入の自賠責保険だけではサポートしきれないため、多くの人が加入する任意の自動車保険ですが、その複雑さから疑問を抱える人は少なくありません。
よくある疑問とその答えをあらかじめ把握しておき、保険選びの悩みを減らしましょう。
車両保険は必要?
基本的には、加入しておいたほうが安心できるでしょう。車両保険は、その対象とする車に乗り続けるうえでの安心を提供する保険であると言えます。
仕事や通勤で車に頻繁に乗る人や愛着をもって車に接している人、ローンで車を購入している人には特におすすめです。
一方、すぐに車を乗り換える予定のある人や、事故時は廃車にしてしまっても良いと考える人には向いていない保険です。
また、車両保険に加入しにくい区分の車両があることにも注意しましょう。車齢の高い車や高級車、スポーツカーといった自動車は修理費用や修理頻度が高いため、一般的な車両よりも車両保険に加入しにくくなっています。
自動車保険料をおさえるコツはある?
補償内容や特約を絞ることが大切です。契約以降も定期的に保険内容を見直すことも節約につながります。
保険選びや手続きの際には、次のポイントを意識してみましょう。
- 車両保険の補償範囲
- 重複する特約のカット、見直し
- 自分だけ、夫婦だけなど補償範囲の設定、見直し
- 割引の使用の可否
- 生命保険との兼ね合い
自動車保険料にかかわる等級とは?
事故歴や前契約の有無によってドライバーには等級が設定されており、その高さによって保険料が割り引かれるようになります。
基本的には事故歴が少ないほど等級が高く、保険料が安くなります。同様に、事故が多ければ多いほど等級も下がり、保険料が高くなります。事故に遭った際の等級については、保険会社から説明があるため、知らないうちに変動することはありません。
すべての保険会社が等級制度を採用しており、保険会社が変わっても等級は引き継がれます。保険料を節約するためにも、安全運転を心がけるようにしましょう。
自分の目的に合った適切な自動車保険に加入しよう
強制加入の自賠責保険だけでは補償に不安が残るため、任意の自動車保険に加入することをおすすめします。基礎的な補償を抑え、自分に必要な特約・サポートと値段のバランスを考え、加入する保険会社を選びましょう。
保険会社や保険のプランだけでなく、代理店型とダイレクト型のどちらが自分に向いているかどうかも大切です。自動車保険は万が一の備えに加えて日頃の運転生活の安心に関わるため、納得のいくものを選ぶようにしましょう。