近年、高齢者の自動車事故の増加を受け、免許証を自主的に返納する人が増えています。運転免許証を返納すると自動車を運転することはできなくなる一方で、さまざまなメリットが得られます。年齢や自身の状態によっては、無理に運転を続けずに、返納したほうが良い場合もあるでしょう。
運転免許証を返納するメリットとはなにか、返納するタイミングや返納方法について詳しく解説していきます。
目次
運転免許証を返納する5つのメリット
運転免許証を返納するメリットは、大きく5つあげられます。
- 自動車事故を起こさなくて済む
- 運転免許を悪用されるリスクが減る
- 免許更新の手間がなくなる
- 自動車にかかる費用が不要になる
- 割引や商品券などの特典が利用できることがある
メリットを知り、返納によってどのような特典があるのかを把握していきましょう。
自動車事故を起こさなくて済む
運転免許証を返納することで自動車を運転する機会がなくなり、結果として自動車事故を起こすリスクがなくなります。
自動車事故を起こしてしまうと自身がけがをするだけではなく、相手にけがをさせてしまう可能性もあります。対人の自動車事故の場合は自身が加害者だと刑罰の対象となり、社会的な信用を失ってしまうこともあります。また、事故によって後遺症が残れば、その後の人生計画に影響をおよぼすリスクもゼロではありません。
自動車事故は死亡率も高く、内閣府の発表によると、75歳以上のドライバーによる自動車事故の死亡率は、75歳未満と比べるとおよそ3倍になることがわかっています。事故によるリスク、デメリットは非常に大きく、運転免許証の返納によってこれらを回避できるのは大きなメリットです。
参照元:内閣府
運転免許証を悪用されるリスクが減る
運転免許証は紛失すると悪用される可能性がありますが、返納することでこのリスクを減らせます。運転免許証は顔写真付きの身分証明書として利用できます。
実際、他人の運転免許証を悪用して起きた事件には、次のようなものがあります。
- ローンを組む
- 銀行口座を開設する
- クレジットカードの発行
- 消費者金融からの借り入れ
- 住所が特定される
上記のように金銭的なリスクがあるだけではなく、犯罪に巻き込まれる可能性も0ではありません。紛失によるリスクを減らせるという点でも、運転免許証の返納はリスク回避として大きなメリットがあります。
免許更新の手間がなくなる
免許更新が不要になることも、返納するメリットの一つです。
運転免許証は3~5年ごとに更新が必要で、基本的に受付は平日のみです。日曜日に受け付けている場合もありますが、混んでいることが多く手続きに時間がかかります。運転免許証を返納すれば、免許更新のために時間を取られることもありません。
免許更新には2,500円~3,850円の更新手数料がかかるため、更新の手間と更新手数料を削減できるのは返納するメリットといえます。
自動車にかかる費用が不要になる
運転免許証を返納すると、家族が利用する場合を除けば、当然自動車も不要になります。そのため、自動車にかかる次のような費用が不要になります。
- 自動車税
- 重量税
- 駐車場代
- ガソリン代
- 保険料
- メンテナンス費用
- 車検代
維持費が安く済んだとしても、自動車にかかる費用は年間30万円程度は必要です。この支出がなくなるのは大きなメリットでしょう。
自動車が使えないことで不便になる場合もありますが、交通アクセスの良い都市部に住んでいる場合は、自動車がなくてもそれほど生活には困りません。
これまで自動車にかけていた費用が浮く分、生活に余裕ができたり、必要に応じてタクシーを利用しても年間の自動車の維持費よりは安くすむことも多く、金銭的なメリットが十分に得られます。
割引や商品券などの特典が利用できることも
運転免許証の返納により、公共交通機関の割引や商品券がもらえるのもメリットの一つです。
たとえば、高齢者運転免許自主返納サポート協議会やシルバー・サポーター制度などを利用すれば、さまざまな特典を受けられます。また、自治体ごとに運転免許を自主返納した人に特典を用意しているケースもあり、制度を上手に活用することでさまざまな恩恵を受けられます。
運転免許証の返納期限と返納する時期の目安
運転免許証の返納を検討していても、いつ返納すれば良いのか時期がわからないという人もいるかもしれません。
運転免許返納に期限はない
自動車の運転免許証は満18歳以上でないと取得できないという年齢制限がありますが、返納には制限はありません。高齢になったからといって、必ず返納しなければならないわけではなく、期限が設けられていないことは理解しておきましょう。
運転免許証の返納はあくまでも自主的なものであり、年齢に関係なく返納時期は自身で決めることになります。
目安は70歳になってからの更新タイミング
運転免許証の返納を考えるなら、70歳になってからの最初の免許更新のタイミングを目安にすることがおすすめです。警視庁が2019年に発表したデータでは、過去10年の免許返納者は42万人を超えており、およそ8倍に増加しています。免許返納の平均年齢は76.96歳であり、70歳以上で免許を返納している人が多いです。
ゴールド免許の場合は5年ごとの更新ですが、71歳だと4年ごと、72歳以上だと3年ごとの更新が必要です。免許更新の手間が増えるため、70歳になってからの最初の更新タイミングが返納に適したタイミングといえるでしょう。
また、免許返納によって得られる特典は、65歳以上から利用できるものが多いため、得られる特典と比較しながら返納時期を決めるのもおすすめです。
運転免許証返納の手続きの流れと必要書類
運転免許証の返納をスムーズに済ませるために、手続きの流れを理解しておきましょう。手続き全体の流れと必要書類を知を解説します。
返納手続きの流れ
運転免許証返納手続きの流れは、次の通りです。
- 返納手続きの窓口で「返納」の旨を伝える
- 必要書類を記入する
- 運転経歴証明書を受け取る
手続きは免許更新センターや運転免許試験場、警察署でおこなえます。ただし、免許証を紛失していると、運転免許試験場のみの受け付けとなるため注意しましょう。
返納する本人が手続きをするのが一般的ですが、免許の有効期限内で免許証が手元にある場合は、委任状を作成して代理人に手続きをしてもらうことも可能です。
返納場所によって、受付している時間は異なります。
受付場所 | 受付時間 | 休日 |
---|---|---|
免許更新センター | 8:30~16:30 | 土日祝日、年末年始(12月29日~1月3日) |
運転免許試験場 |
平日:8 30~16:30 |
土曜祝日、年末年始(12月29日~1月3日) |
警察署 | 9:00~17:00 | 土日 |
※参考:警視庁
場所によって受付時間や休みの曜日が異なるため、事前に確認しておきましょう。
返納手続きに必要な書類
運転免許証の返納手続きに必要な書類は、次の通りです。
- 運転免許証
- 申請用の写真1枚
- 委任状(代理人に依頼する場合)
また、返納の手数料として1,100円が必要です。免許を返納したそのときから運転できなくなるため、会場へは別の人に運転してもらうか、公共交通機関を利用して向かいましょう。委任状は必須ではなく、代理人による返納手続きの場合のみ用意します。
運転免許証を返納するデメリット
運転免許証を返納することでさまざまなメリットが得られますが、同時にデメリットもある点には注意が必要です。
- 再取得にはお金がかかる
- 地域によっては生活が不便になる
- 選べる職種が減る
メリットだけではなく、デメリットも正しく理解して運転免許証を返納するかどうかを決めましょう。
免許証の再取得にはお金がかかる
運転免許証を再取得するには合宿免許に参加したり、教習所に通ったりなど、初めて免許を取得した際と同じ手順を踏まなければなりません。そのため、再取得には20万円~30万円以上の費用がかかります。
教習所などに通わず、運転免許試験場で一発合格を目指す方法もありますが、この場合でも3万円程度の費用が必要です。
地域によっては生活が不便になる
運転免許証を返納すると、住んでいる地域によっては生活が不便になってしまうこともあります。たとえば、電車やバスの本数が少ない地域や、そもそも駅やバス停が遠い地域では、移動が面倒になってしまうことも少なくありません。
都市部ならそれほど問題ありませんが、郊外で交通機関が充実していない地域だと、生活が不便になりやすいことは理解しておきましょう。
選べる職種が減る
自動車が運転できなくなることで、選べる職種が減ってしまうことも、返納するデメリットの一つです。職種によっては運転免許が必須な場合も多く、自動車を使う仕事の選択肢は減ってしまいます。
特に高齢になってからも仕事を続けたいと思っている場合は、高齢であることを理由に選べる職種がかなり限られてしまうこともあります。ただでさえ選べる職種が少ないうえに、運転免許がないことでさらに選択肢が少なくなります。
運転免許証の返納を検討したほうが良い人
運転免許証を返納したほうが良いのは、高齢者だけではありません。年齢に関係なく、運転に向いていない人は免許の返納を検討する必要があります。
下記は運転に向いていない人の一例です。
- 感情のコントロールができない人
- せっかちで攻撃的な人
- よく物忘れをする人
- 病気の後遺症が運転に影響する人
上記の条件に当てはまると心当たりがある人や、他者から指摘されたことがある人は、年齢に関係なく運転免許証の返納を検討しましょう。
感情のコントロールができない人
自動車を安全に運転するためには、冷静な判断が強いられる場面もあります。そのため、激情的でイライラしやすい人や、気分が落ち込みやすい人は冷静な判断ができず、事故を引き起こしやすいと考えられます。
自動車事故は単独とは限らず、周囲の人を巻き込んでしまう可能性もあります。常に冷静でいることが難しいのであれば、免許証の返納がおすすめです。
せっかちで攻撃的な人
自動車事故を起こさないためには、お互いに譲り合って運転することが大切です。せっかちな人や攻撃的な人だと、譲り合いができずに危険な運転をしやすく、時に事故を起こしてしまうこともあります。近年問題になっている煽り運転なども、せっかちだったり攻撃的だったりという性格が影響することも多いものです。
危険な運転をしないためにも、免許証の返納を考えたほうが良いでしょう。
よく物忘れをする人
安全に自動車を運転するには、交通ルールや標識などを覚えておかなければなりません。
そのため、よく物忘れをする人は運転には不向きであり、安全のためにも免許証の返納を考える必要があります。
70歳以上の人が免許更新をする際には、高齢者講習があります。高齢者講習の対象者は、医師から認知症の診断が出ると免許の更新はできません。
物忘れは、それほど運転のリスクが高く、少しでも不安がある人は免許証の返納を検討しましょう。
病気の後遺症が運転に影響する人
事故や病気の後遺症がある人は、免許証の返納を検討しましょう。記憶障害や視力への影響、手足が自由に動かしづらい場合など、後遺症の内容によっては運転に影響する場合もあります。
また、後遺症が残っている場合は主治医に相談するか、「安全運転相談」の窓口で確認してください。返納は個人の自由であるため、後遺症がないと判断された場合でも自身が不安なら返納するという選択肢もあります。
運転に不安がある人は運転免許の返納を検討しよう
運転免許証の返納には期限がなく、年齢制限もありません。そのため、高齢になって運転に不安がある人や運転に不向きな人は返納を検討しましょう。
免許証を返納することには、事故リスクの回避や維持費の削減といったさまざまなメリットがあります。もちろん、メリットだけではなくデメリットもあるため、どちらも把握したうえで返納を検討しましょう。