これまで作業機付きトラクターは公道の走行を禁止されていましたが、法改正によって公道を走行できるようになりました。ただし、公道を走行するためには大型特殊免許が必要であり、その他にもいくつかの条件を満たしていなければなりません。
そこで本記事では、農作業のためにトラクターを運転しなければならない人に向けて、公道を走行するための条件や大型特殊免許の取得方法を解説します。
大型特殊免許を取得する際の条件や取得までの流れ、きをつけておきたいポイントなども
紹介するので、農作業でトラクターを運転する必要がある人はぜひ参考にしてください。
目次
法改正により作業機付きトラクターの公道走行が可能に
これまで、作業機を付けたトラクターは公道の走行を禁止されていました。しかし、法改正で2019年4月から施行された制度により、条件つきで公道を走行できるようになりました。
ただし、作業機付きトラクターで公道を走行するためには大型特殊免許が必要です。公道が走行可能になったからといって、大型特殊免許を持たずに作業機付きトラクターで公道に出てしまうと罰則を受けることになってしまいます。
大型特殊免許取得している場合
大型特殊免許を取得していれば、農業用の作業機をつけたトラクターで公道を走行できます。
他にもフォークリフトやホイールローダー、ショベルカー、クレーン車などの公道走行も可能です。
大型特殊免許取得していない場合
大型特殊免許を取得していない場合、公道を走行するためには新たに大型特殊免許を取得する必要があります。規定条件を超えるトラクターでなければ小型特殊免許で良い場合もありますが、その場合は運転するトラクターの大きさや装備の条件が条件を超えていないか確認しましょう。
クレーン車やブルドーザーなどの運転は必要がなく、公道を走行するのは畑と畑の間などの移動だけという程度であれば、「大型特殊免許(農耕者限定)」の取得を検討するのも良いでしょう。「大型特殊免許(農耕者限定)」とは、免許の条件欄に「大特車は農耕者に限る」と記された免許のことです。記載の通り、トラクターのような農耕車に限って運転可能な免許であるため、それ以外の大型特殊車両の運転が必要ない農耕者にとってはこの免許でも十分と言えるでしょう。
大型特殊免許(農耕者限定)は、各地域のJAや農業大学が開催している研修に参加して取得することも可能です。特に農業大学では、学生以外も受講可能な短期間の研修が年に数回開催されていることがあり、費用は数千円程度から、最短3日程度で取得できる場合が多くなっています。
作業機付きトラクターで公道を走行するための条件
作業機付きトラクターで公道を走行するためには、免許だけでなく車両の条件を満たしていることも必要です。灯火器、車両幅、安定性についての条件を詳しく解説します。
灯火器類の確認
灯火器類(ヘッドランプ、車幅灯、テールランプ、ブレーキランプ、バックランプ、ウインカー、後部反射器)が他の交通車両から確認できる必要があります。
作業機により灯火器が見えなくなっていないかしっかりと確認しましょう。
車両幅の確認
農耕トラクター単体で次の条件を満たす車両が、農作業機を装着した状態で「車両の幅が1.7mを超えていない」ことが必要です。
- 長さ:4.7m以下
- 幅:1.7m以下
- 高さ:2.0m以下
- 最高速度:15km/h以下
なお、農耕トラクター単体が上記に当てはまる車両であり、農作業機を装着した状態で幅が2.5mを超える場合は、農耕トラクターの左側にサイドミラーを設置しなくてはなりません。
安定性の確認
農耕トラクター単体では安定性の基準を満たす車両でも、作業機を付けることによって安定性の保安基準を満たせなくなる可能性があります。保安基準が満たせず安定性が確認されていない場合は、運行速度15km/h以下で走行しなくてはなりません。
運転するトラクターが保安基準に当てはまっているかどうかは「日本農業機械工業会」のホームページから確認できます。
※参考:一般社団法人 日本農業機械工業会
大型特殊免許を取得する方法
ここからは大型特殊免許を取得する方法を紹介します。大型特殊免許を取得するには教習所に通う方法と一発試験を受ける方法があります。それぞれの方法と流れ、費用などを詳しく見ていきましょう。
教習所を利用してから試験を受ける
教習所で教習を受けて卒業した後、運転免許センターで試験を受ける方法があります。この場合、普通自動車免許を持っていると学科試験が免除されることに加え、教習所で卒業検定(技能)にも合格している状態になるため、運転免許センターでは視力などの適性検査を受けるのみとなります。
普通免許を持っている人が、教習所に入校してから運転免許センターで免許が交付されるまでの流れは次の通りです。
- 教習所へ入校(適性検査)
- 技能教習(第一段階:最低3時限)
- 第一段階の見きわめ
- 技能講習(第二段階:最低3時限)
- 第二段階の見きわめ
- 卒業検定
- 合格後、「卒業証明書」発行
- 運転免許センターで適性検査
- 合格後、大型特殊免許証交付
普通免許を持っていると、最短6時間の技能教習を受ければ卒業検定となります。卒業検定に合格後、卒業証明書と普通免許証を持参して免許センターへ行き、適性検査を受けて免許証を取得します。
取得費用
免許の取得費用は、普通免許の有無や教習所によっても異なります。普通免許を所持している人が教習所に通って免許を取得する場合の費用相場は約8~10万円です。
教習所では合宿を利用する方法もあります。合宿では教習所が決めたスケジュールに従って短期間の効率的な技能を習得を目指します。普通免許を所持している場合の最短取得日数は4日程度で、費用相場は10万円程度です。取得を急いでいる場合は合宿の利用も検討すると良いでしょう。
教習所によっては合宿で大型特殊免許を取り扱っていないところもあるので、教習所のホームページや資料などで確認してください。
一発試験で合格を狙う
一発試験とは、教習所に通わずに直接運転免許センターで試験を受ける方法です。この場合も普通免許を持っていれば学科試験が免除されます。
一発試験で免許を取得するまでの流れは次の通りです。
- 運転免許センターで予約
- 試験当日、免許センターで受付
- 適性検査
- 技能検査
- 合格後、免許証交付
普通免許を持っている場合、免許センターでは技能試験と適性試験を受けることになりますが、大型特殊車両は通常の車と車幅や装備、重量などが異なるため操作が難しく、練習をせずに受験すると不合格になってしまう可能性があります。そのため一発試験を受ける場合は、職場の敷地内やトラック協会で借りられる練習場などで、実際に大型特殊車両の運転練習ができる環境がないと難しいかもしれません。
操作方法はインターネットや動画などで調べることもできますが、教えてもらう場合は指導してくれる人を探して依頼する必要もあります。
取得費用
一発試験の場合、免許取得費用は合計6,100円で、内訳は次の通りです。
- 受験料:2,600円
- 試験車使用料:1,450円
- 免許証交付料:2,050円
ただし、不合格となった場合には合格するまで再受験をすることになります。この際、受験するたびに受験料・試験車使用料がかかるため、不合格が続くと費用が増えてしまう点に注意しましょう。
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大型特殊免許の取得条件
大型特殊免許取得の際に求められる、年齢や視力などの条件は次の通りです。
年齢 | 18歳以上 |
視力・色彩識別能力 | 視力が両眼で0.7以上、かつ、一眼でそれぞれ0.3以上であることに加え、「赤・青・黄」の色が識別可能であること |
聴力 | 10メートルの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえること |
運動能力 | 安全な運転に必要な認知またはハンドルその他の装置を随意に操作できること |
視力は、一眼の視力が0.3に満たない場合や一眼が見えない場合、他眼の視野が左右150度以上あり、視力が0.7以上であれば受験可能です。メガネ・コンタクトレンズなどの視力矯正器具の使用も認められています。同様に聴力検査でも補聴器の使用が認められているため、必要な人は忘れずに試験場へ持参しましょう。
運動能力検査では、自動車の運転に支障をおよぼす身体障害がないか、障害がある場合は補助手段を講ずることで支障がないかどうかを確認します。
大型特殊免許を取得するときのポイント
大型特殊免許を取得する際に押さえておきたいことや費用の節約ができるケースなどを紹介します。
教習所は通いやすいところを探す
教習所を利用する場合、自分にとって通いやすいところが良いでしょう。ただし、大型特殊免許を扱っていない教習所もあるため、事前の確認が必要です。
また、大型特殊免許では教習の期限は3ヶ月です。普通自動車免許の9ヶ月より短い期間設定であるため、できるだけ通いやすいところを探して、教習を開始したら早めに卒業を目指しましょう。
教育訓練給付金制度で費用の節約する
「教育訓練給付金制度」が利用できれば、費用の節約ができます。教育訓練給付金制度とは、条件を満たす雇用保険の被保険者(または被保険者であった離職者)が、厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合、費用の20%相当額(上限10万円)を支給してもらえる制度です。
利用条件は、初めて制度を利用する場合は雇用保険の加入期間が1年以上あること、2回目以降の利用は加入期間が3年以上あることです。
申請の際に必要な書類は次の通りです。
- 教育訓練給付金支給申請書
- 教育訓練修了証明書
- 教育訓練受講の領収書
- 本人確認書類(運転免許証など)
- 住所確認書類(住民票の写しなど)
- 雇用保険被保険者証
教育訓練給付金制度の申請は、居住地の管轄であるハローワークでおこないます。
けん引免許の取得も検討
農耕用トラクターでマニュアスプレッダーやブームスプレーヤ、ロールベーラなどけん引タイプの作業機をけん引して公道を走行するときは、別途「けん引免許」が必要です。
走行予定がある場合は、一緒に取得しておくと良いでしょう。大型特殊免許とけん引免許がセットで取得できるプランを用意している教習所や合宿免許もあります。
作業機付きトラクターと大型特殊免許に関するよくある質問
大型特殊免許を持っていない場合やすぐに取得できない場合の対処法や、無免許で公道を走行した場合の罰則について紹介します。
免許をすぐに取得できない場合はどうしたら良い?
大型特殊免許を持っていないけれど公道を走行しなければならなくなった場合、トラクターのサイズによっては、作業機を外すことで運転可能となる場合があります。
作業機を外したときに「長さ4.7m以下・幅1.7m以下・高さ2.0m以下」という車両条件を満たすトラクターなら、作業機を外せば小型特殊免許でも公道走行が可能です。
また、公道を走行するときだけ大型特殊免許を所持している知り合いに助けてもらう方法もありますが、依頼する手間や保険の問題も発生します。代行サービスを利用する方法もありますが、その都度代金を支払っていたら出費がかさんでしまいます。
そのため、畑と畑の間の公道を横断するだけであっても頻繁に公道を走行する場合は、大型特殊免許か農耕者限定の大型特殊免許を取得していたほうが良いでしょう。
法律違反したときの罰則はある?
無免許で公道を運転した場合には、懲役3年以下か50万円以下の罰金が課せられます。この際の違反点数は25点です。免許取り消しとなり、最低2年間の間免許が取得できなくなるため、農業をしている人にとって大問題となるでしょう。
また、整備不良の場合には7000円の反則金が課せられ、違反の点数は7点です。
たとえ「畑から車庫までほんの数メートルの公道を渡るだけ」という場合であっても、大型特殊免許を所持していなければ違反となります。そのため、わずかでも公道を走行するのであれば大型特殊免許を取得しましょう。
トラクターで公道を走行するなら大型特殊免許を取得しよう
2019年の4月以降、法改正によって、作業機付きのトラクターでも公道を走行できるようになりました。ただし、公道を走行するためには大型特殊免許が必須となり、車両の灯火器・幅・安定性という3つの条件も満たしている必要があります。
作業機を外した際の車両サイズが小型特殊免許でも運転できる車両の条件を満たしている場合は、作業機を外せば公道を走行することも可能です。ただし、普段の農作業で頻繁に公道を通る場合は大型特殊免許を取得していたほうが便利でしょう。
大型特殊免許を取得するには、教習所に通う方法と一発試験を受ける方法があります。教習所を利用する場合、合宿に参加して最短日数で取得することも可能です。農耕者限定の大型特殊免許であれば、地域の農業大学やJAの研修で取得できます。
自分に合った方法で大型特殊免許を取得し、作業機付きトラクターで公道を走行できるようになりましょう。
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